2016年の６月頃、あるおじいさんから電話が掛かってきました。「古くなった自宅をリフォームし

たい」とのことでした。

お店に来店していただき、色々と話を聞かせていただきました。年齢は９０歳を超えていたのに、元気で若々しいのが印象的でした。

このおじいさん、実は若い頃から夫婦で世界中を旅し、様々な文化に触れてきた文化人。

奥様はもう亡くなっていたが、古くからの友人に囲まれ、幸せに過ごしていました。

後日、自宅を見に行ったところ、築１００年前後の京町家。

※写真はイメージです。おじいさんの実際の家とは異なります。

「大きすぎる」「傾いている」「寒い」「腐食している」「雨漏りがある」、他にも階段の勾配や高低差など、９０歳を超えたお年寄りが住むには危ない家でした。 

亡くなった妻と長年一緒に住んだ家に対する思い入れがあり、リフォームを希望しておられました。リフォーム予算は６００万円。しかし、家の大きさと痛み具合を考えると、６００万円の予算では満足するリフォームはまず不可能な状況でした。

“大切な老後資金を使ってしまう割に、満足度の低いリフォーム” になるのは目に見えていました。

おじいさんことを考え、正直に、怒られるのを覚悟で「リフォーム」ではなく「住み替え」を提案しました。おじいさんの返事は「保留」で後日連絡するとのことでした。

約一ヶ月後におじいさんから連絡があり、「今の家には愛着があるが、リフォームが難しいなら仕方ない。気に入った物件なら住み替えも構わない・・」と了解をいただけました。

「階段の無い住みやすさ」と「維持管理の負担が少ない」ことを優先し、住み替え先はマンションを候補に探すことになりました。さらに今後の生活を考えて、“自宅の売却代金ー住み替え先の購入代金＝１０００万円前後残る”ことを目標に、住み替えをプランニングしました。

自宅の査定を行ったところ、自宅の査定金額は金２,700万円の評価でしたので、1,500万円前後の物件を探すことになりました。

そして運命の物件（中古マンション）との出会いが！

・それは友人が毎日来れるほど、友人宅から近い場所。

・築年数は30年以上経過しているが、全改装済みでピカピカ。すぐに住める状態。

・南向きで日当たりの良い広い専用庭付き。家庭菜園も楽しめる

・１階部分だったので、マンションでありながら一戸建て感覚で住める

・１階のテナントに内科医院も入っており、何かあったときでも安心。

・価格は金１,５８０万円、引っ越し代等の費用を考えても１,０００万円近くのお金が残る

まさにこのおじいさんのために用意されたような物件でした。

(実際の物件の間取り)

一緒に内覧に行ったところ、まさに“一目惚れ”状態で即購入決定。10月に自宅の売却と

マンションの購入契約を行いました。

2016年12月いよいよ引っ越し、私も休日でしたので引越しの手伝いに行きました。

荷物の中に、奥様と一緒に世界中を旅して撮影したA4サイズほどの写真が２０枚程あったので、それを南側の庭に面した和室の壁面に全て貼りました。

その部屋に入ると数十年前の懐かしい思い出が蘇ったようで、すごく喜んで頂き、いろんなお話を聞かせてくれました。

引越し後も何度かお会いしましたが快適にお住まいされていて、お会いした時はすごく喜んでくれました。

引越しから5年半ほど経った２０２１年６月のある日、おじいさんの友人（会計士）より電話がありました。「実は貯蓄に余裕がなくなり、現在の生活を維持しようとすると、あと１年半ほどしか持たない」とのことでした。

「現在９６歳になる本人は、１００歳まで行きたい。この家で死にたいと言っている。何とか希望を叶えてあげることはできないだろうか？」との依頼でした。

購入時に住宅ローンを組んでおらず、売却すれば最低でも１０００万円以上で売却可能に思われたので、お金の問題は解決しそうでした。

しかし、普通に売却してしまっては本人の「死ぬまでここに住みたい」という希望を叶えることができない・・。

たどり着いた結論は、「不動産業者に買い取ってもらい、賃借して住ませてもらう」いわゆるリースバック。

以前からお世話になっている知り合いの不動産業者に内覧してもらい、査定をしてもらいました。当然ながら、普通に売却するよりは安い金額にはなってしまいましたが、かなり頑張って頂き、今後５年はお金の心配をしなくても良りそうでした。

７月に無事に契約が終わり、おじいさんも大喜び。

私もほっと一安心。「１００歳までと言わずに、あと10年は頑張って長生きして下さいよ」

と励ましました。

それから３ヶ月経った10月のある日の午後、おじいさんの友人から電話が入りました。

「おじいさん、今朝亡くなりました・・」とのことでした。

友人たちに囲まれながら、眠るように穏やかに息を引き取ったそうです。

好奇心と情熱を持って様々なことに挑戦した、充実した人生だったそうです。

２０１６年から始まった、私とおじいさんの住み替えの物語は５年経ったこの日で突然終わりを迎えました。

私は不動産業界で約１８年働き、今まで何百人というお客様と出会ってきましたが、このおじいさんとの出会いと別れは最も強く印象に残っています。

私が「セカンドライフ・ラボ（第二の人生の研究所）」という社名にしたのも、実はこのおじいさんに住み替えを提案、実現してとても満足してもらえた経験からきています。

これから出会う多くのお客様にも、“充実した第二の人生を送るための提案” をさせていただき、 素敵なセカンドライフ実現のお手伝いをしたいと考えています。